第三十八章  「二つの答えと新たな疑問」





 僕がチェリケーの元へ走っていくと、彼女はこちらに気づいたようで歩みを止めた。と
思った瞬間に彼女の姿が消える。
「……!」
 突如、僕の頭上に踵が出現する。寸でのところでそれを後ろへ跳び避ける。見ると、そ
の踵の落下点には大きなクレーターができていた。
 あ、ありえねぇ……
 そんなことを思いながらそのクレーターを眺めながら考える。チェリケーが何処へ消え
たのかを。
「うあっ!」
 ぼーっとしていた僕に強烈な足払いがかけれらたようで転倒した。かけられたようでっ
ていうのは、その足が見えなかったからだ。…尋常なスピードじゃないな。って、誰だ?
「あ、あれ・・・…?トンガリさんじゃないですかぁ〜」
「は・・・?」
 聞き覚えのある、少し間の抜けたような声を聞いてその人物が誰なのかを理解する。も
しかして、今までの攻撃も全部この人が……?疑問に思いそれを聞いてみる。
「さ、さっきのって全部・・・・・・」
「あ、はい〜♪最近ストーカーとかが多いので〜……」
 少し考えた後、彼女が口を開く。
「も、もしかしてトンガリさん……、私を……」
「ち、違うって!」
 慌てて、否定する。何で僕がアンタのストーカーなんかやるんだよ……、また彼女のペ
ースに持っていかれていけない。彼女がさっきの攻撃をしたとして、自分のすべきことを
思い出す。
「チェリケーさん」
「はぃぃ?」
「聞くことがあってきました」
「わかりました」
 どうして真面目な話をするとこの人は口調が変わるんだ……?
 ま、いいか。あの疑問……さっさと聞いてみるか。
「さっきのチェリケーさんが話してくれた事で、疑問があったので聞いてもいいですか?」
「別にいいです。知っている限り答えます」
 何で口調が変わるんだか…………
「父さんが魔物退治の依頼を国から受けて、チェリケーさん達はついていったんですよね?」
 少し不思議そうな顔をしながら、彼女が答える。まぁ、話を確認するような質問だから変
に思ってもおかしくはない。
「そうです、嘘はついていません。でも国から受けた、というのは……?」
「え……?父さんは国から受けたんじゃ……」
 彼女の反応をみた限り、父さんが国から依頼を受けた。というのは知らないらしい。知ら
ないのかもしれない。彼女達は、父さんが出発したときについていったので、理由は聞かさ
れていないはず。この質問は悪かったか……。この疑問は、深く考えないで父さんの言葉を
信じるか。
 次の疑問、銀髪の剣士について聞くか。銀髪の剣士の所存について。
「もう終わりですか?」
 彼女が話しを終わらせて歩き出そうとするので、あわてて口を開く。
「え、いや。ま、まだです」
「私も忙しいわけではありませんが、質問あるなら早くしてくださいね」
 う……、口調変えないで喋ってほしいな。
 じゃ、じゃぁ、続けるか。
「チェリケーさんの話に銀髪の剣士が出てきましたが、名前は、そして今何をしているんで
すか?」
 彼女の顔色が変わった。言いたくなかったことを、言わされるような感じの表情だ。
 やっぱり、無理に聞かないほうがいいかな。
「は、話したくないなら無理しなくていいですよ」
「あ……、はい」
 でも、気になる。所存はわからなくても、名前くらいは聞いておきたい。今後の旅で会うか
もしれない。…名前くらいは聞いておくか。
「チェリケーさん、名前だけでも教えてくれませんか?」
「…………」
 言いたくないんだな……、きっと。何があったかは知らないけど。僕が聞くことを諦めよう
としたとき、彼女が重々しく……
「トンガリさん……、彼は裏切ったんです」
「裏切った……?」
「はい……、彼はリガールさんを裏切って魔物へ情報を送ったんです」
「……!」
 売った。弟子だったんだろ?その人……
「……その人って父さんの弟子だったんじゃないんですか!?」
「それは間違いないです。でも何故彼が裏切ったのかは……」
 弟子が師を魔物に売った…か。父さんを何らかの理由で裏切り、魔物に情報を売った……
 僕の中で怒りが増幅していく。何らかの理由があったからといって人間が魔物と手を結ぶな
んて許されることじゃない。絶対見つけ出して……
 な、名前……
「その裏切り者の名前はなんていうんですか!?」
「な、名前ですか…、でもトンガリさん復讐なんてしたって……」
「復讐なんかじゃないです!」
 言葉とは裏腹に内心こんなことを考えていた。
 今頃、昔の出来事などのことを知って何になる……?ただ父さんに対して裏切りの行為を行
った奴を許せないだけなのか?そもそもなんで父さんは僕をルーインに置き、弟子二人を……
 僕は何をしたいんだ……
 冷静に考えてみると無いのかもしれない。旅の目的さえ。父さんに会って僕は何を聞きたい?
知ってどうしたい?…もう暗いことを考えるは止めよう…
 考えを停止する。今は思ったことをすればいい。答えはそれから見つければいい。
「……名前を教えてください」
「わかりました。トンガリさんの目を見れば大体わかりますよ」
「ありがとうございます。」
「……クレスト。それが私と一緒にリガールさんの弟子になった人の名前です」
 彼女の口から思いもしなかった名前が出てきた………



第三十九章へと続く・・・



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