第三十九章  「謎の爺さん」





 チェリケーさんは、自分と共に父さんの弟子をしていた男の名前をやっと教えてくれた。
でも、その名前は僕が思いもしなかった名前だった。何度も何度も、自分の危機に救って
くれた剣士。
 クレスト……。
 クレストさんが、父さんを裏切った弟子。僕には信じられなかった。もし何か父さんに
個人的恨みがあったのなら、その息子である僕をに殺しにくるとかもしたはずだ。だが危
害を一切加えず、ましてや危ない時には必ず助けに来た。そんなことをする人を疑うこと
はできない。何かの間違いかもしれない。
 確認を取ってみる。
「チェリケーさん、何かの間違いってことは?クレストさんは僕を何度も……」
 彼女は「やはりそうですか…」と言うと、昔のクレストさんについて喋りだした。
「クレストは天性の剣の素質をもった人でした。リガールさんが、彼を弟子にした理由の
一つがこれだと思います。」
 あれだけの剣の腕だからな。天性の素質とかじゃない限り、あの腕は尋常でない。普通
の剣士じゃ、いくら修練を積んでも、あそこまでは強くはなれないだろう。
 今、彼の戦い方を振り返ると、父さんの弟子というのも納得できる強さだ。だけど冷徹
な……氷のような強さ。父さんとは違う、冷たい強さ……
「そういうことを聞いているんじゃなくってですね」
「はい」
「彼がトンガリさんを殺さなかった理由ですか……」
「そうです」
 話題を元に戻したところで、彼女の返事を待つ。
 何か後ろの方に気配を感じるが気にしないでおこう。
「そんなの私にわかりませんよ〜w」
 ぐはっ……。口調を急に戻すな!この人は、っとにぃ。
「でも」
「でも?」
 そのままの口調で彼女は続けた。最もな答えを。
「クレストに聞いたらどうです?」
 当たり前じゃんか!ふぅぁぁぁ。期待しなきゃ良かったわ。
 ………?やっぱさっきから後ろの方に誰かがいる。あぶり出すとするか……
 僕は、帯剣を抜き気配の方へ振りかぶった!水色の衝撃波が剣先から放たれる。
「はぁぁっ!!!!」
 水色の衝撃と共に激しい音を立てて大木が倒れる。切り株ってこうして作られるのかな
と葉が散るのを見ながら考えながら、観察していた者が出てくるのを待つ。
「トンガリさ〜ん、自然破壊ですよぉ!!!!」
「うっさい!チェリケーさんだって誰か僕らのこと見てたの気づいていたでしょ」
「いえいえぇ〜。ぜんぜん〜」
 嘘付け。
 彼女は何処からか取り出した魔珠を握り締めていた。
 魔珠というのは魔法使いが魔力を珠に圧縮したもので、魔法の力が無い者でも気軽に使
うことのできる飛び道具だ。投げつけると効果を発揮する。まぁ、使いきりということが
欠点。そういえば……コックのレイさんだっけ?彼女も魔珠使ってたなぁ。人気あるのか
な。今度、僕もって……
 また話がずれてしまった……
 なんかしょっちゅうだな。おっと、覗き見野郎は〜っと。
「ふんっ!!!!」
 僕の知り合いにはいない野太い声で気合が発せられた。突如、地響きのような音が来る。
次に、強風がきた。異常な風圧で僕らは後方へ数メートル吹き飛ばされた。
「イテテ……、何者だよ」
「この剣圧…まさか!?」
 チェリケーさんは、この攻撃の主を知っているような口ぶりをした。僕には全く心覚えが
ないけど。
 野太い声の主が姿を現す。白い髭を蓄えた老人だ。先程の攻撃といい普通の爺さんではな
い。それにチェリケーさんがトコトコと近づいていっていった。
「危ないですよ、チェリケーさん!」
 忠告を無視して老人に彼女が寄っていくと、彼は親しみのある口調で話しかけた。
「おぉ、チェリちゃんか。…であそこの小生意気なガキは誰だ?」
「誰が小生意気なガキだ!」
「老人にいきなり攻撃を仕掛けてくるとは非常識な」
「そっちが、覗き見してたんだろがぁ!」
「チェリちゃんが心配でのぅ」
「あのぉ、ベンゼンさん〜。もう私も子供じゃないんですからぁチェリちゃんは…ちょっと」
「幾つになってもチェリちゃんはチェリちゃんじゃよ〜」
 ベンゼン……?彼女が呼んだ爺さんの名前らしい。どっかで聞いたことあるような名前だ
な、どっかで……
「彼がリガールの息子のトンガリさんです」
 チェリケーさんが僕の紹介を爺さんにする。別に紹介しなくても……
「誰なんですか?この爺さん」
「私が、超極秘調査の為にここへ呼んだんです」
「超極秘調査って……」
「でも、トンガリさんにお貸ししますね〜♪200MALで〜す」
 お、おぃ。人身売買って奴じゃぁ……?それよりこんな爺さんいらないし。
 まぁ、シャウト故郷に帰っちゃったからいないよりましかぁ……。そういやこの爺さんさ
っき。
「爺さん、どうやってさっきの風を熾したんだ!もしかした魔珠?」
 呆れたような口調で爺さん、ベンゼンが口を開く。
「リガールの息子なのに品性がないのぅ。貴様、ワシをナメとるな!!?」
「ま、まぁ……」
 チェリケーさんが間に入って止める。彼女曰く、ベンゼンなる爺さんとこのあたりで待ち
合わせしていたらしいのだが、極秘調査を独りで行いたくなったらしい。無責任な話だけど。
「じゃ〜ぁベンゼンさん、トンガリさん。ごきげんよぅぅ〜♪」
 一瞬後、彼女は風とともに消えた。魔珠使ったのかな、それとも走ったのかな……
 爺さんが口を開いた。
「まぁ、チェリちゃんの頼みじゃ。小僧、用件を申せ!」
「誰が小僧だ、ジジイ!!!!!」
 剣で本気の一撃をかましたつもりだったのだが避けられた。
 なんつぅジジイだ……
「ほらほら、そんなもんかの?」
「だっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 僕は本気モードに入り、ベンゼンを斬ろうとしていた………



第四十章へと続く・・・



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