第四十二章  「回想」





 この旅に出て色々なことがあったなぁ。たった数ヶ月間しか経っていないというのに、
長く感じすぎる。本当、たくさん体験をした。それを朝の風にあたりながら振り返ってみ
る。
 あの時に滅んだルーインは何とか復興した。あれだけの傷跡はまだまだ隠しきれていな
いが。僕はそこでこの旅に出るまで暮らしていた。緑が豊富だったというのに焼き払われ
たために、今でも大地の土の色しか思い出せない。
 父さんの非難をする人たちが大勢いた。あの時に父さんがいればおそらく町は滅ばなか
っただろう、と。襲ってくるのを知っていて、それが怖くなって逃げ出したんだ、という
者もいた。その中その人の息子に対する扱いも酷くなった。町では臆病者扱いされ、食料
なども殆ど売ってくれなくなる。そして外を歩くと石を投げつけられたりもした。
 仕方ないのかもしれないが、父さんはそんな臆病者ではないと僕はしっている。いくら
他者に何と言われようともその考えだけは貫き通した。
 数年が経ち、少年から青年へ成長した僕は旅に出ることを決意する。ルーインをここま
で破壊した男、ハーデスを討つ為と、父さんを探しだして何があったのか探すために。
 一本の剣を町で買った。父さんの持っていた倭刀に似ているものだ。実際は安物な為、
本物よりは性能は格段に違うだろうが、旅の目的を忘れないようにとそれを選んだ。
 
 数日後、冒険者の町セルミナへ着く。そして初めてあの人に会った。銀髪の剣士、クレ
ストさんに。彼は冒険者になったと周りの人が言っていた。今思うと、何故彼が冒険者に
なったのだろう。父の弟子だったという事を考えると国家レベルの騎士団などに入っても
不思議ではない。第一、それの場合、冒険者の儲けなどとは比較にならないと思う。わざ
わざ冒険者になった理由が彼にあるはずだ。
 裏切った弟子。父さんを裏切った彼。何故裏切ったのかは分からないし、本当に裏切っ
たのかはわからない。自分としては、何度も窮地を救ってくれた彼がそんな人物だとは信
じたくない。……でももし本当なら許すわけにはいかない。

 そういえば、町から出て盗賊に襲われたことがあったな。あれが僕にとって始めての剣
を使う機会になった。
 あの後、リベンジも喰らったが、クレストさんが助けてくれた。彼がこないと僕自身助
かって無かったと思う。あの盗賊団は彼によって完膚なきまでに退治された為、もう会う
ことはないだろう。ってかもう会いたくないな……

 レイさん。元王宮調理人の人の弟子。あの性格は何かついていけなかったなぁ。ノーラ
ンディアの扉を通るために、ガルフネットにグルメを作ってあげたんだっけ。あのグルメ
作るのはかなり厳しかったな。材料を取り入ったり、彼女にしごかれたり……本当辛かっ
たな。

 その後、アイツに会ったんだっけ。自称天才魔法使い・シャウトに。
 確か湖の魔物を倒してくれって言われてアイツと会ったんだよな。あの時もクレストさ
んが来たな。何者なんだろ、今思うと。
 
 洞窟でチェリケーさんに会った。あの人は何か僕のことを探しているようだったけど、
父さんのことを伝えるためだったんだな。
 あの人も何かついていけない性格してるな。僕は何か、不思議な人たちに巡り合う性格
なのかなぁ……

 で、今僕はここにいるわけか……。
 悪霊の森と呼ばれるそこに僕は立っていた。暗い空気が流れてくる。あきらかに普通の
森とは違う。そしてここに今入ろうとしている。
 ベンゼンの爺さんが先にここに入った。父さんはもっと昔にここに入っていた。
 この森は時間の流れが止まっているらしい。一切の年をとらない。このことが本当だと
したら、父さんはあの時の姿でまだ生きている……
 一歩を踏み出し、森へと進入した。



第四十三章へと続く・・・



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